男性不妊

無精子症と言われてもあきらめる必要はありません

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無精子症と言われたら妊活終了??

 精液の中に精子がまったくいないのが無精子症です。男性不妊の15~20%が無精子症です。男性全体では0.5~1%くらいの人が無精子症といわれています。

 無精子症と診断されたらかなりショックですよね。でもまだあきらめる必要はありません。今回は無精子症について詳しく解説します。

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無精子症の種類

 閉塞性(精子の通り道がつまっている)と非閉塞性(それ以外)に分けられます。

閉塞性無精子症

 閉塞性無精子症とは手術や炎症などによって精巣から射精される精子の通り道がふさがってしまったことにより精子が出てこれなくなった状態です。

 よくあるのが小さい頃に足の付け根のヘルニアで手術をした場合です。いわゆる脱腸というやつです。この手術の際に精子の通り道がふさがってしまうことがります。この手術を受けたことがあるという人は早めに精子の検査を受けておいた方がいいと思います。最近は精子の通り道をふさがないような手術が行われることが多いようです。

非閉塞性無精子症

 非閉塞性無精子症とは精巣で精子が作られなくなっているために精子が出てこない状態です。

精子形成

 精子はこのようにおおもとの精祖細胞から精子に3ヶ月くらいかけて成長していきます。

 非閉塞性無精子症は、精巣の中に精祖細胞すら全くない場合から、精子細胞で止まって精子まで成長できない場合などいろいろな状態があります。精子まで成長しているけれど、少なすぎて出てこない場合もあります。

 非閉塞性無精子症の多くはは原因不明ですが、10~15%でY染色体にある精子を作る働きのある遺伝子が欠けているのが見つかります(このことに関しては別に解説します)。

無精子症の診断

 当然診断は精液検査で精子がいないということになります。一度の検査で診断はつかないので何度か検査して確認します。精液を遠心して細胞を下に集めて調べて、それでも精子がいないか確認します。

 無精子症と診断された場合は、ホルモン検査、精巣の大きさの診察が重要になります。これらの検査で、精液の中に精子がいなくても、精巣の中には精子がいる可能性があるかを予測します。

 FSHの値が20IU/Lくらい以上だと精巣の中に精子がいない可能性が高くなるという報告が多いです。ただし、FSHが高くても精子がある可能性は変わらないという報告もあり、FSHが高いからといって精巣の中に精子がないとはいえないと思います。

 精巣の大きさも同様です。精巣の正常な大きさってわかりますか?一番長いところで計ってだいたい3.5cmくらいです。2.5cm以下だと小さいです。ただし、これも小さいからといって精子がないとはいえません。

 精巣の大きさが2.5cm以下だと精子が少ない可能性があるので、早めの検査をお勧めします。

 パッと見て陰嚢のなかのどこに精巣があるかわからない感じだとかなり小さいです。

 閉塞性無精子症の場合は通り道がつまっているだけなので、精巣の中では精子が作られていることが多いです。よってホルモン検査や精巣の大きさも正常です。

 非閉塞性無精子症の場合はFSHが高かったり、精巣が小さいことが多いです。

無精子症の治療

 無精子症と診断されたからといって妊娠をあきらめる必要はありません。

無精子症の治療

 手術で精巣または精巣上体(精巣の脇にある精子が貯まっているところ)から精子を取ることができる可能性があります。手術には3通りの方法があります

経皮的精巣上体精子吸引術

 閉塞性無精子症の場合に行われます。

 精子の通り道がつまっているので精巣上体には精子がたくさん貯まっていることが多いのです。経皮的というのは、切ったりしないで皮膚の上から針を刺して精子を吸い出すということです。局所麻酔で外来手術が可能なので負担が少ないです。

精巣上体精子吸引術

 腰椎麻酔または全身麻酔をかけて行います。陰嚢を切開して精巣上体をむき出しにして、直接目もしくは顕微鏡で確認して、精巣上体の精子がありそうな部分に針を刺して精子を吸い出す方法です。顕微鏡を使うことで精子が取れる可能性が高まります。

 業界用語ではメサ(MESA)と呼ばれています。

精巣内精子採取術

 非閉塞無精子症で精子が少ない場合、精巣上体から精子を取るのは難しいので、精巣から直接精子を取ります。

 腰椎麻酔または全身麻酔をかけて行います。陰嚢を切開して精巣をむき出しにします。さらに精巣の表面を切開すると精巣の中身が出てくるので切り取ります。それをよくほぐして精子を見つけます。顕微鏡で見て精子がありそうな部分を切り取る方法が主流になっています。

 業界用語ではテセ(TESE)と呼ばれています。

以上の方法で精子が取れた場合はそれを使って顕微授精を行なって妊娠することになります。

手術を受けるにあたって

 FSHが正常な場合は精子が取れる可能性が高いので手術を受ける価値があると思います。

 FSHが高い、精巣が小さいなどの場合、精子が取れない可能性があります。手術自体は30~60分くらいの、それほどリスクの高い手術ではありませんが、まれに合併症があります。主治医とよく相談して手術するか決めてください。

手術の合併症

出血

 手術中に輸血しなければならないほど出血することはまずありません。術後に精巣の傷がこすれて出血を起こすと、陰嚢の中に血が貯まって腫れあがってしまうことがあります。自然に血が止まって、貯まった血が吸収されていくことが多いのですが、痛みが強かったり腫れがひどい時には、切開して貯まった血を取り除くこともあります。

感染

 手術の時、傷にばい菌がつくと痛みがでて赤く腫れたり膿が貯まることがあります。抗生剤で予防、治療をします。

 

このような合併症が起こる可能性は5%以下だと思います。

まとめ

 無精子症なら妊娠をあきらめなければならない時代もありました。今は顕微授精→メサ・テセなどの技術によって、妊娠できる可能性があります。顕微鏡を使って手術をする方法で、精子が見つかる率がさらに高くなっています。

 無精子症が不妊の原因であった場合、精巣から精子をとることができれば、女性には問題がない場合が多いので、顕微授精1回で40%くらいの確率で妊娠できます。

 この記事を参考にして、今後の治療を考えてください。

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