体外受精 治療

体外受精・顕微授精・凍結胚移植をすると先天異常は増えるのか? 〜産婦人科医が詳しく解説します

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生殖補助医療による先天異常のリスクを論文で確認ます。

 体外受精などの生殖補助医療を受けることになった時、赤ちゃんに異常が出る確率が高くなるのでは?というのが心配がありますよね。

 ネットでは体外受精で先天異常の確率が高くなることはないと書いてあるのをよく見かけますが、論文を調べてみましょう。

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先天異常(先天奇形)について

 今回のお話で先天異常(先天奇形)とするのは、世界保健機関のよって公表されている国際疾病分類の「先天奇形、変形及び染色体異常」にリストされているものになります。

 ほとんどの論文がこの分類にあるものを先天異常として報告しているからです。

 酵素欠損など先天代謝異常は含まれていません。

 具体的な異常はウィキペディアを参照してください。

 その中でも機能障害を起こしたり、手術が必要な異常はメジャー異常とします。

生殖補助医療(体外受精・顕微授精)と先天異常

 生殖補助医療で生まれた赤ちゃんの3~8%くらいに先天異常が認められ、自然妊娠で生まれた赤ちゃんの2~5%くらいに先天異常が認められるとする報告が多く、まとめると生殖補助医療で生まれた赤ちゃんの方が30%くらい先天異常の割合が高いとされています。メジャー異常の割合は40%くらい高くなります。

 なぜ生殖補助医療で生まれた赤ちゃんに先天異常が多くなるのでしょうか。

 体外受精や顕微授精のいろいろな処置が受精卵に影響して先天異常が多くなっている可能性もあります。

 もうひとつの可能性として多くの論文に書いてあるのは、体外受精や顕微授精が必要な不妊症の人は、自然妊娠する人と比べて卵子の質などの問題で、先天異常が多くなりやすいのではないかということです。

 体外受精の処置自体が先天異常の原因となるのか調べるには、例えば一人目は自然妊娠で、二人目は体外受精で子供を産んだカップルを集めて、どちらが先天異常が多いか比べてみるといった比較をしないと正確な判断はできません。でも実際このようなカップルを多く集めるのは難しいです。

 現時点では、生殖補助医療が直接的に先天異常に影響するのかはわかっていません。しかし、生殖医療で赤ちゃんを産んだ場合は先天異常が多くなるというのは頭の中に入れておく必要があると思います。

 日本産科婦人科学会がまとめたデーターでは体外受精・顕微授精で生まれた赤ちゃんに先天異常が起きるのは1.2%くらいだと報告してます。

 この違いはどうしてなのかわかりませんが、日本の報告では登録漏れがある可能性、海外の報告では代謝異常が含まれている可能性があると思います。

体外受精と顕微授精の比較

 日本産科婦人科学会のデーターでは、体外受精の先天異常が1.09%、顕微授精の先天異常が1.25%で顕微授精の方が先天異常が多いとしています。 

 海外ではどちらかというと体外受精と顕微授精で先天異常の可能性は変わらないとしている論文が多いようです。

 顕微授精は卵子に針を刺すので異常を起こすのではと思いますが、そうでもないようです。

 顕微授精が必要なほど精子が少ない男性は、まれに精子の遺伝子に異常があって、それを無理やり授精させることで赤ちゃんの異常の原因となるという可能性は考えられます。

 この記事で話題にしている先天異常ではありませんが、男性のY染色体にAZFと呼ばれる精子を作る働きを持っている遺伝子があって、それが一部欠けているために精子が作られにくくなっている人がいます。顕微授精で男の子が生まれるとそのY染色体が受け継がれるので、その男の子も精子が少なくなる可能性が高いです。このことに関しては別記事で詳しく解説します。

受精卵凍結の影響

 受精卵を凍結したり溶かしたりすることが異常を起こす可能性がある気がしますがどうでしょうか。

 新鮮胚移植と凍結胚移植で先天異常に差があるのか研究している論文はまだあまり多くありません。今のところ変わらないというのが多いようです。

 凍結融解を耐え抜いた受精卵は質の良い受精卵なので、先天異常も少なくなるのではという考えもあるようです。

胚盤胞移植の影響

 胚盤胞の方が良い受精卵を選択できているので、先天異常が少なくなりそうですが、差がないとする論文が多いです。

この記事で解析した論文の多くは生まれた(死産も含まれてているものもあります)赤ちゃんの異常の可能性を比較しています。体外受精は自然妊娠より倍くらい流産になる率が高いです。流産になるような大きな異常(染色体異常)は、体外受精・顕微授精で高くなると考えられます。ただし、これも体外受精・顕微授精の処置自体の影響なのかはわかっていません。

まとめ

 体外受精の処置が直接の原因かはわかりませんが、体外受精・顕微授精で生まれて子供は自然妊娠と比べて30%くらい先天異常の可能性が高くなることは理解しておいてください。また流産率も高いです。

 顕微授精・凍結胚移植・胚盤胞移植などの処置では先天異常の可能性が高くなるということはなさそうです。

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