体外受精 治療

体外受精ついてまず始めに要点をわかりやすく産婦人科医が解説します

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妊活最後の挑戦が体外受精

 妊活の究極の治療が体外受精になります。最後の挑戦と書きましたが、体外受精にもいろいろなオプションがあるので、最初のやり方ででうまくいかなかったら違う方法に変えたりして治療を進めていきます。この記事では体外受精の解説の始めとして、その概要をわかりやすく説明します。

 ちなみに産婦人科医は体外受精のことをIVF(アイ・ブイ・エフ)と言います。

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体外受精が必要になるのは

  1. 両側の卵管がつまっている(働きが悪い)
  2. 精子がものすごく少ない
  3. 原因不明だがなかなか妊娠しない

以上の3つが主な場合になります。

1. は卵管造影で卵管が両方とも通っていない場合ですね。子宮内膜症・クラミジア・骨盤感染・お腹の手術をしたなどが原因として考えられます。先に腹腔鏡手術をして卵管の通りを回復させるトライをしてみることもあります。

2. 具体的に精子の数がいくつ以下なら体外受精というのは、はっきりした基準はないのですが、元気な精子が50~100万以下なら体外受精が望ましいと思います。

3. タイミング療法→人工授精と進んで、人工授精を5~6回しても妊娠しない場合は、体外受精へ進むのをお勧めします。年齢・精子の状態などによって早めに体外受精に進んだほうがいい場合もあると思います。

体外受精の妊娠率は

体外受精の妊娠率

 日本産科婦人科学会が全国の体外受精を行なっている施設からのデーターをまとめた資料です。

 妊娠率とは子宮の中に胎嚢が確認できた場合を妊娠としています。化学流産は含まれません。ETというのは胚移植すなわち受精卵を子宮に戻すことです。このグラフの妊娠率は「1回子宮に受精卵を戻すと何%で妊娠して子宮の中に胎嚢が見えるようになるか」を示しています。

 新鮮胚(体外受精をしてできた受精卵をすぐに子宮に戻した場合)と凍結胚(受精卵を凍結保存して後から子宮に戻した場合)に分けてあります。凍結胚を戻した方が妊娠率が高いですね。このことについては別記事で解説します。

 生産率というのは妊娠した中から流産、死産となったケースを除いたものです。生産率はETではなく採卵あたりの率になっています。1回採卵すると何%で生産になるかを示しています。妊娠しても流産・死産となってしまう場合があること、採卵しても胚移植できない・しない場合があるので上の妊娠率と比べるとだいぶ低くなってしまします。

 2004年頃から生残率が低くなってきているのは、体外受精をする人の平均年齢が高くなってきて流産・死産の割合が多くなっているためではないかと思います。

 では年齢による妊娠率・生産率・流産率を見てみましょう。

体外受精と年齢

 36~37歳くらいか妊娠率の低下が大きくなていきます。

 自然妊娠の場合の流産率は10%くらいなので体外受精の場合は若い人でも流産率は高いです。40歳以上になると40~50%の流産率になってしまいます。

 受精卵を子宮に戻すことができれば30歳で41%、35歳で36%、40歳で24%妊娠する可能性があるということですね。

体外受精の実際の手順

 では体外受精の実際の流れをご紹介します。

体外受精のスケジュール

排卵誘発

 排卵誘発の注射を始める前の高温期5~7日目からGnRHアゴニスト(スプレキュアもしくはブセレキュア)を始めます。鼻の中に噴射する点鼻薬です。

GnRHアゴニスト

GnRHとは視床下部から出て下垂体のLH・FSHの産生を刺激するホルモンでしたね。
GnRHアゴニスト(スプレキュア、ブセレキュア)はもともと子宮筋腫や子宮内膜症に使われるお薬です。アゴニストとはGnRHの作用を持っているという意味です。
GnRHアゴニストを使うと最初下垂体からFSHがいっぱい出るのですが、GnRHアゴニストを使い続けると下垂体が反応しなくなってFSHやLHが出なくなってしまいます。すると卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)も出なくなります。閉経と同じような状態になります。子宮内膜症や筋腫はエストロゲンの働きで進んだり大きくなるので、閉経後は小さくなっていくんでしたよね。
では、体外受精の時になぜ使うのかというと。下垂体からのFSHを出なくすることで、排卵誘発の注射のみで卵胞の発育をコントロールするのと、LHが出なくすることで、LHサージが起きて採卵する前に排卵してしまわないようにするのです。

 生理の3日目から連日排卵誘発の注射をします。5~7日間くらい注射したら超音波で卵胞の育ちをチェックします。数日間注射を追加してまた卵胞チェック、これを繰り返して、20mm近くの大きさの卵胞が2~3個育ったら採卵に向けてHCGを注射します。HCGを注射した36時間後くらいに採卵をします。

調節卵巣刺激法
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採卵

 いよいよ採卵です。緊張しますよね。

 控え室のベッドで点滴を入れた後、採卵室に入ります。手術室みたいでものものしい感じです。

採卵室

 ベッドに横になって、血圧・酸素の取り込みを計る機械をつけます。

 準備ができらた麻酔の開始です。点滴の管から麻酔薬が入ります。ちょっと点滴のところがしみるかもしれません。眠くなったらそのまま眠ってください。完全に眠らないこともありますが、麻酔が効いていて強い痛みは感じないと思うので心配ありません。

 膣の中をよく消毒した後、超音波で卵胞を確認して針を刺して卵子を吸い出します。卵胞が10個くらいだったら10~15分くらいで終わると思います。

 採卵が終わったら控え室に戻って休みます。お腹の痛みや出血が大丈夫なのを確認して帰宅します。卵子が何個とれたか教えてくれると思います。

 この間にご主人は自宅もしくは病院で精液をとってもらいます。

 卵胞数が少なくて卵子が取れなかった場合はここで治療が終了になってしまします。次の予定を確認して帰ってください。

培養器
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 取れた卵子と精子を受精させて、培養器の中で育てます。

培養器

 胚移植は排卵の2日後または5日後に行います。もどす受精卵は2日後だと2回細胞分裂して4細胞に、5日後だと何回も分裂して胚盤胞になっています。

受精卵

 すぐに胚移植をしない場合は、胚盤胞になった受精卵を凍結保存して、後で胚移植します。

液体窒素
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 採卵室ですることが多いと思いますが、ベッドに横になり診察の体勢になります。最初に試しの管を子宮の中に入れてみます。お腹から超音波を見ながら、管が子宮の奥に入るのを確認します。これはしない病院もあるかもしれません。そのままの体勢で待ってもらい、培養室にある受精卵を管に吸って持ってきます。試したのと同じように超音波で見ながら管を子宮の奥へ入れて受精卵を注入します。管の中に受精卵が残っていないかを顕微鏡で確認できたら終了です。

 麻酔は必要ありませんし、痛みもあまりないと思います。まれに子宮の入り口が狭くて管が入りにくいことがあります。その場合どうするかは別記事で解説します。

受精卵の発育
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黄体支持療法

 排卵誘発の時に使っていたGnRHアゴニストはHCGを注射する前に終了しますが、その後2週間くらいは下垂体の働きがおさえられたままになります。下垂体からLHが出ないと卵巣からプロゲステロンがでないので、子宮内膜が着床しやすい状態になりません(こちらの記事で復習してください)。

 卵巣からのプロゲステロンが出ないので、代わりにプロゲステロンの薬を使います。注射や、膣錠など病院によっていろいろな方法が使われています。

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 採卵後16~18日目くらいに妊娠検査をする病院が多いと思います。

 妊娠検査が陽性になっても、20%くらいは流産、3%くらいは子宮外妊娠の可能性があるので、まだ油断はできません。子宮の中に胎児心拍が確認できれば一安心です。

まとめ

 この記事を読んで体外受精とはどんなものか、わかっていただけでしょうか。詳細については別記事で解説していきます。

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